株式会社 natural rights
カルビー 株式会社
今回のインタビューは、カルビーさんをご訪問し、取材当時担当だった高橋文子さん(人事総務本部人事総務部部長、ダイバーシティ委員会委員長)、二宮かおるさん(社会貢献委員会委員長)、田中宏和さん(コーポレートコミュニケーション本部広報部部長)にお話をお伺いしてきました。
松本会長が就任し、新たな運営体制になってから大きく企業利益が改善したことは、記憶に新しい人も多いでしょう。
また、松本会長はダイバーシティを力強く推進しています。
企業利益率改善とダイバーシティ推進、この二つがどう結びつくのか知りたい。そう思って尋ねたとき、見えてきたのは感動的な信念でした。
●ダイバーシティがはじまったきっかけ●
――ダイバーシティの委員会が2010年に発足され、女性活躍やマタハラ対策にも積極的に取り組もうとされている姿を拝見しております。年に一度大きな集会を設けていらっしゃるなど、かなり活発に活動されていますね。
これには何かきっかけがあったのでしょうか。例えば離職率が高いなどの大きな問題があり、その解決のためにダイバーシティ達成が必要になったのでしょうか。
高橋
弊社経営者が変わったのが一つの大きなきっかけです。
――2009年に松本会長が就任されていますね。
高橋
そうです。
会社を変革する大きな問題、必要性があったかと言われると、多くの従業員は決してそれを感じてはいなかったと思います。
松本が企業の成長にはやはり女性が活躍していないと成長できないという考えを持っています。
当時、カルビーの管理職は男性が多く、女性の比率が低かったこともあり、女性の活躍なしには企業は成長しないというメッセージを発信しスタートさせました。
しかし、当時女性従業員は、自分達が活躍していないといったことや、評価されていないといったことは、さほど感じていなかったと思います。仕事も任されていたという認識がありました。
女性活躍という方針が出されて、かえって衝撃的だったくらいです。
二宮
2009年に着任した松本晃は、以前、ジョンソンアンドジョンソンの日本法人で社長を務めており、グローバルの視点を持っていました。社会貢献、ダイバーシティは売上、利益と車の両輪のごとく、会社が発展するためのエンジンになるという強い信念を持っています。
現在のカルビーグループビジョンはジョンソンアンドジョンソンのクレドを継承しています。
まずはお客様が大事で次は従業員。3番がコミュニティ、最後に株主というふうに、従業員を大切にすることが会社のビジョンにも盛り込まれています。
そういったこともあって、社会貢献委員会と、ダイバーシティ委員会というのが同時に2010年に立ち上がりました。
今回のインタビューは、カルビーさんをご訪問し、取材当時担当だった高橋文子さん(人事総務本部人事総務部部長、ダイバーシティ委員会委員長)、二宮かおるさん(社会貢献委員会委員長)、田中宏和さん(コーポレートコミュニケーション本部広報部部長)にお話をお伺いしてきました。
松本会長が就任し、新たな運営体制になってから大きく企業利益が改善したことは、記憶に新しい人も多いでしょう。
また、松本会長はダイバーシティを力強く推進しています。
企業利益率改善とダイバーシティ推進、この二つがどう結びつくのか知りたい。そう思って尋ねたとき、見えてきたのは感動的な信念でした。
●ダイバーシティがはじまったきっかけ●
――ダイバーシティの委員会が2010年に発足され、女性活躍やマタハラ対策にも積極的に取り組もうとされている姿を拝見しております。年に一度大きな集会を設けていらっしゃるなど、かなり活発に活動されていますね。
これには何かきっかけがあったのでしょうか。例えば離職率が高いなどの大きな問題があり、その解決のためにダイバーシティ達成が必要になったのでしょうか。
高橋
弊社経営者が変わったのが一つの大きなきっかけです。
――2009年に松本会長が就任されていますね。
高橋
そうです。
会社を変革する大きな問題、必要性があったかと言われると、多くの従業員は決してそれを感じてはいなかったと思います。
松本が企業の成長にはやはり女性が活躍していないと成長できないという考えを持っています。
当時、カルビーの管理職は男性が多く、女性の比率が低かったこともあり、女性の活躍なしには企業は成長しないというメッセージを発信しスタートさせました。
しかし、当時女性従業員は、自分達が活躍していないといったことや、評価されていないといったことは、さほど感じていなかったと思います。仕事も任されていたという認識がありました。
女性活躍という方針が出されて、かえって衝撃的だったくらいです。
二宮
2009年に着任した松本晃は、以前、ジョンソンアンドジョンソンの日本法人で社長を務めており、グローバルの視点を持っていました。社会貢献、ダイバーシティは売上、利益と車の両輪のごとく、会社が発展するためのエンジンになるという強い信念を持っています。
現在のカルビーグループビジョンはジョンソンアンドジョンソンのクレドを継承しています。
まずはお客様が大事で次は従業員。3番がコミュニティ、最後に株主というふうに、従業員を大切にすることが会社のビジョンにも盛り込まれています。
そういったこともあって、社会貢献委員会と、ダイバーシティ委員会というのが同時に2010年に立ち上がりました。
――松本会長の柔軟な発想力にはグローバルな背景があるのですね。
松本会長が就任されてから利益率が非常に大きく上がり、ニュースでも話題になりました。変革には様々な要素が関係していると思いますが、この利益率の上昇とダイバーシティに関係性はありますか。
例えば、女性の視点を取り入れて商品開発をするなど、企業の利益に貢献する側面があると思いますが、いかがでしょう。
高橋
まずひとつ断っておきたいのは、女性の視点を入れるためにダイバーシティを進めたわけではありません。国籍や障害の有無と基本的に関係なく、多様な人財が活躍し、個人が成長することで会社は成長すると考えています。
そう考えたとき、現在従業員の36%が女性ですが、彼女たちをサポート業務としてだけ使おうという発想は意味がないということですね。
――性別に関係なく能力のある人は正当に評価されるべきだと。
高橋
そうです。実際に商品企画を担当する女性は昔からたくさんいて、男女ともに活躍していました。
――自由な社風は伝統としてある。
高橋
はい。
おそらく皆さんの想像よりもカルビーは小さい会社です。広島で創立され、松尾という一族で会社を経営してここまで来ました。非常に家庭的で、従業員の顔が全員わかるくらいの会社です。
メーカーなのでコマーシャルを打ちますし、店頭に商品がたくさん並び、小さいころから皆さんに買って頂いているので非常に身近な企業かとは思うのですが、知名度に比べてそれほど大きくなく、従業員と経営者の距離感も近いのです。
――もともと自由で家庭的なところにダイバーシティというスローガンが乗っかったと。
――ダイバーシティ委員会の設立経過を教えていただけますか。
高橋
最初は社長直下に各事業所や本社の人をメンバーとしてダイバーシティ委員会を発足しました。
委員長以外はみな現業と兼務でした。発足の次の年くらいから、工場もちゃんとダイバーシティ進めましょうということになり、工場からも人を積極的に出してもらいました。
また、自分の事業所のダイバーシティも推進しようということで、それぞれの事業所にもダイバーシティ委員会ができました。
――発足にあたって従業員の反応はどのようなものでしたか。
高橋
最初は、本社から指名をして参加していただきました。ただ全員がやる気いっぱいで来ているわけではなく、送り出されて来ている人ももちろんいました。とはいえ、比較的意欲的な人が集まりました。
――Japan WIN Conferenceでは、みなさん積極的で、別の部署で成功体験がでると、われもわれもと発表し合っている、ということをお聞きしました。
高橋
ダイバーシティ推進で経営者が言っているのは「女性の役職率を上げなさい」ということです。
しかし、例えば工場で女性管理職を増やしましょう、といわれてもすぐに何をやればいいかよくわからない。
そこで、ダイバーシティ推進についての良い活動事例を共有し、横展開したということです。そうすることで次のアイディアも出てきやすくなりました。それが初期の活動です。
――どのような事例が上がってきたのでしょう。
高橋
ある工場ではダイバーシティ新聞というのを作り壁に張ったりしました。
別の工場では、自分の工程しか知らないという人も多かったことから、工場長が案内役となり自分達のための工場見学を行ったり、工場メンバーの多様性を知ろうということで、メンバー紹介を壁に貼りだしたりと地道な活動が中心です。
――働く仲間のことを知ることが大切だと。
高橋
大げさに構えたものではありません。
ダイバーシティ推進と声掛けされたとき、おそらく最初に思いつくのが、女性管理職や女性の活躍だったのでしょう。それで集められた人間は女性が多くなるのだと思います。
ところが、ダイバーシティを話し合っていくうちに、日ごろ自分が困っていることとか、感じていることを気軽に話せる場面が出てくるものです。
その中で「もっと工場の中を知りたい」といったことや、「他のシフトの人の顔がわからない」といった意見が出て、メンバーのことを知ろうという運びになりました。
――各工場の女性の割合はどれくらいですか。
高橋
契約社員を含めて、大体5割です。
職場によって違いますが、社内では準社員と呼んでいますが、その人達のほとんどが女性です。管理者は男性がほとんどです。製造のライン上にも女性管理職が増えてほしいと思っています。
●ダイバーシティの掛け声があるからこそ変わる部分がある●
――特に差し迫った問題や不満があったわけではなく、ダイバーシティ推進を始められたということですが、それによって会社が変わりましたか。例えば雰囲気が良くなったなどあればお聞かせください。
高橋
カルビーでは、育休から復帰し、育児勤務をする場合、昼間の短時間勤務をするのが当たり前になっていました。
そのような勤務だと工場のシフトに組み込むのが難しいので、仕事内容は、忙しいところを手伝ったり、掃除をお願いしたりしていました。
この状態を本人たちはしょうがないと思っていた。
ところが、育児勤務者が集まって話をすると、「もっとがんばりたい」とか、「自分の腕前を活かして仕事をしたい」という発言が出てくる。こういう発言は今まで聞いていませんでした。
それではどうしようかと考え、徐々に動きが出てきたというところです。
――工場では、ライン勤務できない時短の勤務の人には、手詰めのお菓子セットを作るということを拝見したことがあります。これは、まさにこの話し合いから出てきたものですね。
高橋
そうです。自分達に何ができるかと話し合いを繰り返しました。
他にも、育児休業明けに、作業改善のような支援スタッフとして復帰した人がいたのですが、本人の希望を聞くと、「ラインで働きたい、もっとやりたい」ということだったので、日勤で働けるようにシフトを組み直したりしています。
――なるほど。ダイバーシティを進めることで、職場環境などの改善につながったり、仕事に対する意識、また、会社への帰属意識が変わったりするのだと実感します。
●社員が妊娠した時●
――産休などの休暇の取得や、復帰のハードルがとても低いように感じます。マタハラでよくあるのは、時短でしか働けないのだったら辞めてもらうといったことですが、そういったことがなさそうですね。
高橋
辞めてもらうといったことは、基本的にはカルビー人は皆言いません。家庭的で優しいのです。
実はそこに問題があると感じています。以前は、結婚を機に会社を辞める人も多かったのですが、徐々に結婚後も辞めなくなり、さらに妊娠しても会社に残って、復帰してまた働き出す人達が増えてきました。他の会社もそうだと思います。
以前は復帰する人が少なかったので日勤の短時間でも働ける職場に配属していました。例えば工場だったら事務所や品質管理のポジションです。
しかしながら、ポストがもう無くなってきたので、何かいい方法はないか試行錯誤しているのが現状です。
――優しい雰囲気の職場では、育児勤務者などに負担をかけたら可哀想だということから、掃除などの軽作業にまわすなどがありがちで、社員全体のモチベーションが下がってしまうことになりかねない。お話を聞いてその課題も視野に入れていらっしゃるのだと感じます。
高橋
そうですね。実際ぶら下がりの人は少なからずいます。ただ、それを活かすも殺すも結局管理職の役割だと思います。
現在、産休明けの育児勤務の人が多い工場があり、私も去年1年間そこに張り付いて、育児勤務者が活躍する方法はないかと色々施策を打ちました。
その時は本人たちのやる気を引き出すことができませんでした。どのような手を打っても、それなりの理解は得られるのですがやはり「今の生活を絶対変えられない」という結果になりました。
ところが、そこの製造課長が、新しいシフトを作り、育児勤務者もラインに入れるように仕組を変えました。育児勤務者全員に面談をしてどんな風に働きたいのかを聞き、それを実現できるように準備をして、良い方向に動いたのです。
今までは育児勤務をする時の選択肢は、「休日は出ない」「何時間以上は働けない」というものでした。
しかし、そういう申請をしていた人達が変更するように申し出てきたのです。「休日もたまにだったら」「残業できます」と。
そこの工場では、育児勤務者のほとんどが9時から16時の勤務時間です。工場の勤務の1直といわれるものが6時15分からなのですが、6時15分から9時までの間は、人がやや手薄になる日が出てきました。
そこを誰か働きませんかという話をしたら、「週に1日くらいならできます」というふうに、自分の生活を変え、スキルを活かして仕事で満足を得るというように変わってきています。
やはりマネージメントと仕組み、この両方があれば歩み寄りでき、お互い満足のいく働き方はできるなと感じました。
――オーダーメイドの対応ですよね。それこそ社員1人ひとりとコミュニケーションをとるのは非常に素晴らしいことだなと思います。
高橋
その課長さんが偉いのですよ。(笑)
――でもそういう課長さんが1人でもいれば、それぞれの工場に波及しますね。どの業界でも安定したシフトを組むのは簡単ではなく、負担が偏ったり無理を強いたりしがちですが、だからこそコミュニケーションをとるのは重要ですね。
工場の担当者、その課長さんの権限は大きいのでしょうか。
高橋
はい。課長は自分のラインの製造課の生産量と製造原価に責任をもっていますし、就業規則や法律にのっとっていれば、現場の仕事の采配も任せています。本社の我々はそのために規則を変えたり、支援に徹しています。
二宮
松本と伊藤が進めているものに「簡素化・透明化・分権化」という3つがあります。その部署のことはその上長に責任があるとして、分権化は非常に重要な要素です。
ちなみに、簡素化についてですが、例えば出張手当なども役職や出張先によってクラス分けがされていましたが、原則実費精算というシンプルな仕組みにかわりました。
――優しい雰囲気の職場では、育児勤務者などに負担をかけたら可哀想だということから、掃除などの軽作業にまわすなどがありがちで、社員全体のモチベーションが下がってしまうことになりかねない。お話を聞いてその課題も視野に入れていらっしゃるのだと感じます。
高橋
そうですね。実際ぶら下がりの人は少なからずいます。ただ、それを活かすも殺すも結局管理職の役割だと思います。
現在、産休明けの育児勤務の人が多い工場があり、私も去年1年間そこに張り付いて、育児勤務者が活躍する方法はないかと色々施策を打ちました。
その時は本人たちのやる気を引き出すことができませんでした。どのような手を打っても、それなりの理解は得られるのですがやはり「今の生活を絶対変えられない」という結果になりました。
ところが、そこの製造課長が、新しいシフトを作り、育児勤務者もラインに入れるように仕組を変えました。育児勤務者全員に面談をしてどんな風に働きたいのかを聞き、それを実現できるように準備をして、良い方向に動いたのです。
今までは育児勤務をする時の選択肢は、「休日は出ない」「何時間以上は働けない」というものでした。
しかし、そういう申請をしていた人達が変更するように申し出てきたのです。「休日もたまにだったら」「残業できます」と。
そこの工場では、育児勤務者のほとんどが9時から16時の勤務時間です。工場の勤務の1直といわれるものが6時15分からなのですが、6時15分から9時までの間は、人がやや手薄になる日が出てきました。
そこを誰か働きませんかという話をしたら、「週に1日くらいならできます」というふうに、自分の生活を変え、スキルを活かして仕事で満足を得るというように変わってきています。
やはりマネージメントと仕組み、この両方があれば歩み寄りでき、お互い満足のいく働き方はできるなと感じました。
――オーダーメイドの対応ですよね。それこそ社員1人ひとりとコミュニケーションをとるのは非常に素晴らしいことだなと思います。
高橋
その課長さんが偉いのですよ。(笑)
――でもそういう課長さんが1人でもいれば、それぞれの工場に波及しますね。どの業界でも安定したシフトを組むのは簡単ではなく、負担が偏ったり無理を強いたりしがちですが、だからこそコミュニケーションをとるのは重要ですね。
工場の担当者、その課長さんの権限は大きいのでしょうか。
高橋
はい。課長は自分のラインの製造課の生産量と製造原価に責任をもっていますし、就業規則や法律にのっとっていれば、現場の仕事の采配も任せています。本社の我々はそのために規則を変えたり、支援に徹しています。
二宮
松本と伊藤が進めているものに「簡素化・透明化・分権化」という3つがあります。その部署のことはその上長に責任があるとして、分権化は非常に重要な要素です。
ちなみに、簡素化についてですが、例えば出張手当なども役職や出張先によってクラス分けがされていましたが、原則実費精算というシンプルな仕組みにかわりました。
――本社の女性で、例えば商品開発で活躍される女性が産休で抜ける場合、マタハラの事例では休まないように圧力をかけるなどあるのですが、カルビーさんではどう対応され、また仕事の穴をどのように埋めていますか。産前産後の働き方もお聞かせください。
高橋
戻って来てまた実力を発揮してもらえれば全然かまわないと考えるでしょうね。
仕事の穴埋めはケースバイケースです。上司がカバーすることもありますし、人を補充して済むのであればそうします。
育休明けは同じ部署に戻るというのが基本ですが、育休の約2年で、組織が変わっていたり、既に人が補充され戻れない場合もあったりしますので、その人の専門性や状況に応じて対応していくっていうのが今のやり方です。
育休中も上司との面談を定期的に設けていて、子連れで会社に来ていますよ。
――女性の産休・育休取得はほぼ100%で、そして復帰されるのですね。男性の方はいかがでしょう。
高橋
男性はなかなか育児休暇を取得しませんね。
出産前後に休みをとる人はいますが、出産休暇や、育児休暇を取得した人は過去に1人か2人いたかという感じです。
出産前後の休みは、有給や配偶者出産休暇(※)で休みをとるので、官庁に提出するデータには載せられないのですね。
(※政府が企業に導入を奨励している制度で、出産の入院等の日から出産後までの2週間の間で、2日程度の休暇を取得できる制度)
夏にサマータイムを導入していますが、育児勤務の方や、家庭で諸事情のある方はフレックスタイム制度で基本的には10時までに出社するようにしています。夏休みの間だけ育児勤務しますという男性も現れてきています。
――サマータイムやフレックス制度を入れ、自由な雰囲気があれば、確かに男性も育児に意欲的になるように思います。
男性が育児休暇を取得することを周りの人はどう考えるのでしょう。
高橋
よくやった! といいますね。
●会社が好きで在宅ワークはあまり進まない●
――2014年に正式導入された在宅勤務制度はみなさん活用されていますか。
高橋
主に活用しているのは育児勤務者ですが、そうでない方も在宅勤務しています。
ただ、みんな会社が好きなのか会社に来てしまいますね。
トライアルを2013年にした際、半ば在宅勤務を強制的に行い、従業員の多くが在宅しましたが、2014年4月から半年くらいの間では、350人の内の50人程度の利用です。本社では積極的な在宅制度の活用をするよう、2015年の7月に決めたところです。
週2日までの在宅勤務ができるようになっており、前日までに在宅での仕事内容を上司に申請して了解を得ることになっています。
――条件を満たした場合に在宅勤務すると拝見したのですが、どのような条件でしょう。
高橋
入社3年目以上の事務職が対象です。自立して仕事が出来る人に在宅で仕事をしてもらうということです。中途入社の方は特に入社年数で制限はありません。
もうひとつは在宅に向いている業務で、自分で仕事を完結できる仕事です。例えば工場勤務の人は在宅ではやりづらいでしょうね。
――在宅勤務制度を導入すると、時間管理が難しくなる面が出てくると思います。それに伴い、評価制度も変更する部分が出てくると思うのですが、現在、評価制度はどうなっているのでしょうか。
高橋
評価制度もトップが変わったとき、すべて結果で評価するというふうに変わりました。
極端なことを言うと、年に1日だけ出社しても、業績を達成できればそれでいい。
上司と1対1でディスカッションをしたうえで一人一つずつ目標を決めます。中間レビューというものがあり、期中に進捗の確認の場があります。コミュニケーションを非常に重要視しています。
――評価制度の方法は最近始まったことですか。
高橋
もともとあったものですが、以前の評価制度のときは、半期単位の目標で、半期で達成の有無を確認し、比較的プロセス評価もありました。例えば研修を受けたということも評価対象でした。
今はそういったことがありません。すべて業務の結果で全部評価し、デジタルで測れるもので評価しなさいということになっています。
変化した点をあげれば、今年度から、管理職の目標達成の項目に「部下の育成」が加わり、それも評価の対象になったことですね。
ただ、例えば事務関係のルーチンワークなど、数字で測れない仕事をどうやってデジタル化するかなど、試行錯誤している部分もあります。
――ところで、社内の席を固定せず、毎朝席替えされるシステムを導入されているのにとても驚いたのですが、これはダイバーシティ委員会が出来てからでしょうか。
二宮
以前赤羽に事務所があったのですが、丸の内に移転する際、働き方を変え、よりコミュニケーションを密にとろうと考えました。この時に導入したシステムです。
赤羽に本社があった時は9階建てのビルで働いていました。人は水平には動くけれど、上下には行き来しないという習慣を考え、ワンフロアで皆が働ける環境を得ました。
今はワンフロアで300人くらいが働いています。壁も柱もないので会長や社長もそのあたりにいて何かあればすぐに相談できるのが良いです。
伊藤(COO)と松本(CEO)は着任当初からタウンホールディングミーティングを開催しています。年に1回、自ら全国の全拠点をまわり、直接従業員と対話してビジョンを共有しています。
――こういった制度の変革がいろいろメディアに出ており、また松本会長ご自身も露出されていますね。これを受けて求人にも何か効果的な変化はありましたか。
田中
もちろん面接に来る人の反応はあります。「これがあるからカルビーを受けました」という人もいました。新卒の学生さんはよく研究されていますね。
それに、広報への取材も段違いで増えました。松本は自ら広報を意識しており、自分が広告となるんだったら、こんなにお金のかからないPR方法はないという発想です。
――Japan WIN Conferenceや、WAWのような、女性のエンパワーメントを進めるイベントでカルビーさんがやていることはありますか。
高橋
フォーラムを毎年1回11月に開催しています。全国から300~400人ほど集まります。
ゲストには一線で活躍される方を招き、1回目は、ペプシコパートナーシップでペプシコ社さんとも連携があるので、CEOのインドラ・ヌーイさんからビデオ・メッセージをもらったりしています。職場の事例などの発表を従業員自らが発表したりなどしています。
このイベントは、ダイバーシティのための研修というより、理念を理解してもらうことを重視しています。
――ダイバーシティ委員会が始まってしばらくたちますが、見えてきた課題などがあればお聞かせください。あるいはこのまま現状を維持するためには、どういうメンテナンスが必要だと感じていますか。
高橋
単純に会社のための貢献できる人をいかに働きやすくするか、ということに尽きると思います。
そのためにも、やはりダイバーシティは非常に大事だということを、はやく全員に理解してもらうこと。強力にダイバーシティ推進をしている会長の松本がいなくなくなったときに会社の中の常識となっているようにすることが、重要なことだと考えています。
二宮
ダイバーシティは経営のスタイルそのものです。マタハラの問題は、経営者の女性や出産や育児に対する考えのあらわれではないでしょうか。
――その通りです。マタハラ被害者のアンケートをとったときも、社員規模は問わないという結果が得られ、件数の割合でも、上場企業が19%を占めていました。
日本の99.8%以上が中小企業と言われている中で、上場企業が20%弱あるというのはすごく大きな数字です。
しかし、発想を変えれば、上場企業のトップ同士は影響が伝播しやすいと思いますので、松本会長の素晴らしいリーダーシップに期待しています。
高橋
トップがこだわるのも、女性活用が会社の発展に繋がるという、プラスの意味がありますからね。
事業は所詮事業で、稼いでなんぼのところがありますが、だからこそ、お客様に愛されない会社は継続できないものですし、そのために社会貢献もやり、また同じように、従業員がこの指止まってくれない会社は継続できませんので、従業員に対して働き方も整えるのは会社の役割だという意識は必要ですね。
――マタハラの問題は女性の人権問題ではありますが、それだけでなく、エコノミックイシュー(経済問題)です。
女性が第一子の妊娠を機に、今6割、日本で辞めている現状があります。
それが続くと日本経済に大打撃を与え、各企業の活動にも重大な影響を及ぼすことを広げていきたいですし、会社のトップの方々に届けばと思っています。
ダイバーシティを進めることはやはり経営戦略だと思います。このことに多くの人達に気づいていただけたらと思います。
「売り上げを上昇させよう!」と掛け声をかけても会社は変わらないものです。
ところが、「ダイバーシティを達成しよう!」と掛け声をかければ、きめ細やかな見直しができ、従業員にも浸透しやすい。しかも、実はこれがいちばん業務改善につながるのではないでしょうか。この経営戦略の鉄則への確信が印象的でした。
お客様からも従業員からも愛される会社だけが継続できる。このクラシカルな公理の正しさが力強く証明されたように感じたインタビューでした。
インタビュー:2015年8月