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<長時間労働>「振り替え休日」に二つの大問題


長時間労働の削減などを目的に、政府を中心に「働き方改革」の機運が高まっています。長時間労働の温床の一つとなるのが、休日出勤とそれに対する振り替え休日が管理できているかどうかです。振り替え休日と代休の違いを含め、具体例をあげながら特定社会保険労務士の井寄奈美さんが解説します。  ◇振り替え休日なのに休めない社員から不満の声  Aさんは、従業員数200人ほどの会社の総務課長。給与計算業務が主な担当で、各部署の管理職とともに社員の勤怠管理もします。同社は土日祝日が休日ですが、顧客の都合で休日出勤する社員が複数の部署にいます。  会社は管理職に、休日出勤の社員について、休日を平日に振り替えて休ませるよう指示していました。  しかし、現実にはうまくいきません。平日に休めるのはごく一部の社員だけでした。多くの社員は、平日に休むことができず、再度振り替えても、また出勤になるのが常でした。未取得の振り替え休日ばかりがたまり、ある社員はそれが年間60日にも達しました。  この社員は、ほぼ毎週の土曜日と祝日に出勤しても業務が終わりませんでした。日曜日だけは休めましたが、平日に振り替え休日を取ることなどできません。週1日の法定休日をなんとか確保できている状態だったのです。  総務課は、社員の振り替え休日も管理しています。各社員の未取得の振り替え休日数を記したリストを毎月作り、各部署に配って、取得させるよう注意を促します。しかし、それだけでは取得率が上がることはありませんでした。  会社は、「休日出勤をしたら振り替え休日を取らせる」としていたため、休日出勤手当を社員に支払っていませんでした。すると、「満足に振り替え休日を取れないまま年度末を迎えるのはどうなのか」「振り替え休日が取れないならせめて休日出勤手当を払ってほしい」という不満の声が、社員から上がり始めたのです。  ◇対策を講じても休日出勤が減らない状態が  もちろん会社としても、未消化の振り替え休日が何十日もあるのを見過ごすことはできません。Aさんが中心となって、あいまいだった休日出勤と振り替え休日取得のルールを徹底しました。  その内容は、休日出勤は事前申請とする▽休日出勤が月の前半の場合は当月末までに、月の後半の場合は翌月末までに振り替え休日を指定する▽休日出勤日には割増賃金分のみを支払う▽原則、指定した振り替え休日を取れない場合は1日分の給料を支払う。振り替えはなし--というものでした。  事前申請の際には、上司が当月1カ月間の休日出勤数を確認します。そして、振り替え休日の消化率を毎月総務課から各部署に通知し、特定の社員が休めない状況にならないよう確認する仕組みを導入しました。  しかし現在も、特定の部署の一部の社員が休めない状況が続いています。会社は業務配分を見直し、休日出勤を減らす方法を摸索しているところです。  ◇振り替え休日と代休とは違う  そもそも振り替え休日とは、「就業規則で定めた休日を労働日に変更し、近接する労働日を休日に変更する」制度です。就業規則で定めることと、休日出勤が決まった時点で、振り替える休日を事前に指定する必要があります。  労働日と休日の変更なので、休日出勤手当の支払い義務はありません。ただし、同じ週に振り替えできない場合は割増賃金の支払い義務が発生します。  一方、振り替え休日ではなく、代休(代償休暇)を与える会社もあります。この場合は、休日出勤に対して休日出勤手当を払わなければなりません。代休は、休日に労働した後、その代償または慰労として、労働日の労働義務を免除するものだからです。休日と労働日は変更されていないので、休日出勤の事実は消えません。出勤時点で手当の支払い義務が生じます。  会社が社員に代休を与えるのは必ずしも義務ではなく、代休の日の給料を支払うかどうかも就業規則によります。しかし、振り替え休日と代休を混同し、休日出勤手当を支払わない会社もあります。両者は違う制度なので注意が必要です。  振り替え休日や代休の運用があいまいで、休日出勤を管理できないままうやむやにしていると、二つの問題が起きます。一つは休日出勤手当が未払い賃金となることです。もう一つは社員が長時間労働に陥り、健康被害につながる恐れがあることです。  業種や職種によっては、顧客対応などで休日出勤せざるを得ないこともあるでしょう。その際会社は、振り替え休日を社員に指定して終わりにしてはいけません。社員が確実に休めているかどうかを確認しなければなりません。  休みが取れない場合は、一定の期限を決めて休日出勤手当を支払い、精算しましょう。いつまでも振り替え休日をためたままにしていてはいけません。何より、業務の見直しで休日出勤を少なくしたり、休日出勤することになっても確実に振り替え休日を取れたりする職場環境作りが大切です。

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